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約束


photo credit:takasuii

世界でたったひとりの人のために、世界で一冊だけの絵本を手創りするライフワークで、以前手創り絵本をプレゼントしてからおともだちになった『かのん』から手紙が届いた。心臓を悪くしていて、入院している病院からだ。


手紙には、『はなびがみたい(花火が見たい)』とあった。


産まれて間もなく心臓を悪くしていることが判り、以来ずっと病院で暮らしている。酸素吸入は必須で、いつもチューブを鼻のところに付けてはいるが、院内を歩いたり、調子が良い時は外を散歩したりもできる。

ただ遠出をしたり、人の多いところに出掛けることはできなくて、入院してから夜空を彩る花火を見たことがない。正確には、転院する前の病室の窓から遠くの方でかすかに見える花火だったり、遠くの方で花火大会をしているんだろうなとわかる『どん!どん!』という一定のリズムで聞こえてくる音で花火を感じることはあった。


かのんはぼくが絵本作家であることや、あれやこれやと世界中のアイディアを駆使して奇想天外な絵本を創ることから、ぼくのことを『魔法使い』だと思っている。

かのんの手紙を額面通り受け取れば、絵本でリアルな花火を見られるようにしてほしいということになるんだろうけれど、漫画家さんでいうところのネームを描きながらかのんの花火への想いを思うと、なんか違うなと思った。そうじゃないと思った。絵本はからめるとしても、メインではないなと。


体調が良い時は、3時間に限って外出許可が貰えるとお母様から聞いていた。もちろん酸素ボンベ付き、車椅子だが、それでも外へ出られるのは、かのんにとって飛び上がりたくなるほど嬉しいことだと思う。

考えた。

近隣の花火大会のスケジュールとかのんの体調がぴたりとあってくれたなら、人でごった返す所では見ることが叶わなくとも、ロケーションを事前にリサーチして、会場から離れた場所からでも眺められる絶景ポイントを用意してあげることができる。夏祭りの気分が直には味わえないが、味わえるものは用意できる。

ところが、外出許可は昼間に限るとのことで、このプランは頓挫(付き添いのご両親が体を休めるためにご自宅へと戻られるため、精神面からか夜になると体調を崩しやすいという事情らしい)。

ふと思い出したのが、2015年の夏に放送していた福士蒼汰さん、本田翼さんダブル主演のドラマ『恋仲』第7話 https://www.fujitv.co.jp/b_hp/koinaka/backnumber/215000006-7.html

入院中の女の子がお見舞いに来てくれる同級生に想いを寄せながらも伝えられないまま、転院することが決まってしまう。

一緒に花火を見に行こうと約束しながらも叶わないことを知った周囲のおとなたちが、院内に屋台を作り、使っていない部屋にダンボールに四角い穴を開けてビル群を作り、中からライトアップして夜景を。そしてプロジェクションマッピングで花火を映し出して、浴衣で、ふたりっきりでデートする願いを叶えてあげるのだった。


かのんがもし体調がすぐれず外出許可が貰えないときは、このドラマを真似ようと思うけれど、セカンドプランの域は出ない。

昼間の外出許可。
夏祭りを味わってほしい。
リアルな花火大会を見せてあげたい。

前に名古屋パルコにあったプラネタリウム『アストロドーム』で、映画を観た記憶が蘇った。もしあんな場所で、東京ディズニーリゾートの夜のイベント『Ladies and Gentlemen,Boys and Girls!』でスタートするあの花火のように、ワクワクする体感型の花火を見せてあげられたら。


手紙を受け取った後病院へとお見舞いに行ったとき、かのんが車椅子でおさんぽした帰りに迎えてくれた。

しゃがんで、『花火が見られるように約束するよ』指切りげんまんをしようとして小指を出したら、『うん。約束』ちいさな手で、左、右と、両手で小指を握ってくれた。

なんだか泣きそうだったあの気持ち、温もり、感触を思うと、なんとしてもだ。


アーリーリタイアの道楽もんつながりで、プラネタリウムが好き過ぎて自宅にドーム型のプラネタリウムを創っちゃった変わりもんの爺さんがいて、あの人に頼んでみるかと出掛けた。

プラネタリウムを溺愛し過ぎている変態だから、自分以外の人を入れることはまかりならぬと門前払いを食らった、案の定。

でも、ここで引き下がるわけにはいかないと、こっちもなにかを溺愛することにかけては変態だから、プロジェクションマッピングのプランを並行して進めつつ、お百度参りのように手土産持参で通っては頭を下げ、想いをしたためた手紙を渡してきた。

そうして一ヶ月近く毎日毎日しつこく通い詰め、『このままじゃ夏終わっちまうなぁ』『このままじゃ手土産にするお店もなくなっちまうじゃないか』と思っていたら、『変態め!』頭を掻きながら了承。変態に『変態』って言われることに苦笑しながら、根負けした爺さんが中へと入れてくれた。


しばらくして、かのんに外出許可が出た。

この日のために着ると、心待ちにしていたという浴衣に袖を通したかのん。同じく浴衣でいらしたご両親。

爺さんのドームが見えてしまうとネタバレになってしまうから、かのんには病院からアイマスクをしてもらって、ドームへと入ってもらった。


かのんに絵本を手渡した。
ちょっと大きめの絵本。

ご両親とかのんで絵本を開くと、まっしろ。『あれぇ?』不思議に思って互いの顔を見ていると、まっしろな絵本に映像が映る。虹色に輝く光の玉で、ぴゅうっと空高く、勢いよく飛んでいくと、天井にぶつかって万華鏡のような花火となり、ディズニーリゾートのようなエンターテインメント型の花火大会がスタート。

国内外の友人に頼んでビデオで撮影してもらっていた花火大会の映像を送ってもらって、賛同してくれる仲間と共に2時間に編集。それを自作の曲を提供してくれるアーティストの友人へと送って、音と光の共演に仕上げた。

実際にその場で見ているような臨場感を味わってもらいたいから、お腹に重低音がより響くよう工夫。『どん!どん!』いつかに聞いた遠くの方で花火大会をやっているんだろうなのどん!どん!ではなく、夢見ていた花火大会会場で見ているようにしてあげたかった。

第一部一時間、第二部一時間の間には、心意気に賛同してくれたテキ屋の友人がドームの外で手弁当で屋台を出してくれて、ご両親、かのんに夏祭りの気分を存分に楽しんでもらった。それはかのんだけでなく、ご両親の『いつか一緒に夏祭りに』という願いも叶えるものだった。


外出許可の3時間をフルに使い切り、病院へと戻るかのんを、手弁当で協力してくれた総勢20人のクリエイターやエンターテイナー、爺さんを筆頭にした喜ばせ変態の面々で見送った。


いっぱい笑って、いっぱい話した3時間。

『ヒロ』
かのんに呼ばれた。

小指を出している。


両手で、左、右。
そっと握った。
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